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*Life with M-LEICA style*

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更新日 2010-11-06 | 作成日 2008-03-03

Pompon

愛しのポムポン

我家にポムポンという猫が居る。生まれて間もなく引き取り哺乳瓶でミルクを与えながら育てたものだからかわいくて仕方がない。あまりにかわいいものだから、ちょっと口が魚臭いのも気にせず、時々キスしたりする。ある時、何かの拍子に舌がからまったことがある。猫の舌は鮫肌のようにざらざらとしてディープキスには向かないとと思ったと同時にポムポンも人間の舌はつるつるとして物足りない、と感じたかも知れない。
ポムポンという呼び名は、パリのビュッシー通りで出会った猫の名前からいただいた。ビュッシー通りは、パリ左岸、サンジェルマンという街にある。長く滞在する時には、この通りにある1ツ星のビュッシーホテルによく泊まった。すぐ近くに市場があるので、ここでは朝早くから、人々の行き交う音や、小さな窓に来る小鳥の声や、パンの焼ける香ばしい匂いで目を覚ますことができる。


僕の中でパリを初めて意識したのは、高校時代。情報源は映画や小説、そして写真だった。写真家となって、いつか思いきりパリを撮ってみたいと考えていた。そうしてやっと念願かない1989年1月、パリに足を踏み入れた。朝早い時間にサンジェルマンに着き、すぐにカフェフロールでカフェクレームとクロワッサンでプティデジュネ。道行くオシャレな女性達を眺めながら、「やっぱりパリはいい」。と何度も思った。その時から今まで5回パリと福岡を往復しているのだけど、いちばん気に入っている事は、自由を感じられることだ。フリーランスで仕事を続けている僕にとって、この空気はとても嬉しい。もう一つ嬉しい事がある。それは写真に対する人々の関心が非常に高いということだ。毎年11月は写真月間ということで、イベントがたくさん開かれ、街は写真でいっぱいだ。そして見に来ている人の層も広く小学生から、腰の曲がった老人達まで丁寧に視ている。




写真を生み出したフランス。たくさんの作家に愛された街、パリ。
そして、そこを撮影できる歓びに満ちて、素直にシャッターを押し続けることができた。そうして仕事ではなく、私事で取り集めた写真を昨年、ペーパームーン社から写真集「PARIS POSES PERSONNELLES」として出版していただけた。タイトルは、直訳すると「パリ、個人的な露出。」写真の露出と表現、という意味を重ねてる。

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そして、この中にビュッシー通りのポムポンは登場する。
ちょっと冷え込んだ冬のある朝、いつものようにカメラを手にしてホテルを出ると、車のフロントフードの上にいる猫が目に入った。きっとエンジンのまだ残っているぬくもりで暖を取っていたのだろう。数枚シャッターを切った。最初は、空を見上げたり、横を向いたりと、ポーズをとってくれていたのが、もう飽きたとばかりに大きなあくびをして、逃げてしまった。その後もこの界隈でよく見かけ、カフェでのんびりと日なたぼっこをしているかと思えば、店の前で門番のようにお客をチェックしてたりと気儘に生きている。
首輪に名前と電話番号が彫り込んであり、調べてみると近くのお総菜屋の飼猫だった。

こうやって書いている今も、人の間を縫って市場を悠々と横切っている姿が目に浮かぶ。
そして我が家のポムポンはというと、テレビの上に座って、うつらうつらと、うたた寝している。
<FIN>

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