Elmarit-M28mmf2.8/1stLEICA-M.Lens1965年に発表されたこのレンズは、カナダライツの設計デザインで少数ドイツ・ウェツラー製があるものの、ほとんどがカナダ製である。大きくわけてエルマリートM28mmf2.8は4世代あるが、いちばん人気のある初期モデルが手元にあったので紹介したい。 レンズは6群9枚構成で最短撮影距離0.7m。スーパーアンギュロン21mmと同じ非レトロフォーカスタイプ。後ろ玉が突き出しているためM5、CL以外の露出計が内蔵されているMボディに装着できても、測光はできない。重量が225gとどの世代よりも軽く、しかもストッパーアタッチメント(無限遠ロック)がついていたりと、その手の込んだ機械加工や鏡胴がくびれた形の良いフォルムに魅了される。また性能も往年のライツらしさを表現してくれると評価も高い。 |
Black&White
Elmarit-M28mmf2.8/1st
このレンズで気に入ったものを手に入れるのには、大変苦労した。外観は美人でもテストしてみると片ボケが顕著だったり、レンズ内の張り合わせてあるバルサムに問題がありドイツまで送ったこともある。そうしてやっと見つけ出したのはレンズ番号#219万代、ヘリコイドのガタもなく程度の良いものであった。
見た目も美しく性質も生真面目、とても穏やかである。まずモノクロで撮ってみると解像力、コントラストどちらもバランスが良い。加えて自然で柔らかいトーンを表出してくれる。歪みもほとんど感じず、解放絞りでの周辺光量低下も気になるほどではない。何だ、いいとこばかりじゃないか。と思われるだろうが、良い玉に巡り会えば、、という前提があるのをお忘れなく。
3枚の写真はすべてニューメキシコにあるサンタフェ界隈で撮ったもの。晴天率が年300日を超えるこの地方は、日中は光が燦々と降りそそぎ、毎日夕陽を楽しむことができる。また治安も良いうえ、日本人観光客も少ない。絞りは豊富な光のおかげでF8.0前後を使っているが、絞り込んでもけっして硬い描写にならないところがすばらしい。
帰国してからの暗室作業においても、豊かなトーンで美しいグラディエーションを描いているので、プリントするのが楽だった。内蔵露出計は使えないけれど、有り余る性能の前では些細なことでしかない。
Color
カラーで撮るとほんの少し青みが強いくらいで、良い意味で渋い発色をする。以前、レトロフォーカスタイプに設計変更された程度の良い2ndモデルと撮り比べるチャンスあった。周辺部は光量もパフォーマンスも2nd-modelの方が良かったが、個体差というものを考慮しても私のレンズの方が中心部に関して解像度が高く繊細で、線を細く表現しているように感じた。
3rd-model1st-model
ここでは1st-modelと手元にあった3rd-modelとを比較してみよう。どちらも被写体に合い好ましく再現している。コントラストが高く派手?とまでは言えないながらも発色が今的なのは、比較的新しいニュージェネレーション・レンズ、3rd-modelの方だ。とはいえ、日本では販売中止となったコダクロームを使い1st-modelで撮った写真のいぶし銀のような発色も好みである。
どちらにしても描写はあくまで柔らかく、ボケも素直だし歪曲収差もほとんど感じることはない。
これは、スコットランド地方で撮った海男の写真である。フィシャーマンズセーターを着て遠く海を眺めている。そのようなイメージで頼んで撮らせていただいた。使用フィルムはコダクローム。夏ではあったがスコットランド特有の重く垂れ込めた厚い雲を入れたくてアングルにこだわった。
そしてエルマリート28mmf2.8/1stは、そのアイディアを確実に表現してくれた。
こうやって見ていくと、エルマリート28mmf2.8/1stの写りに関してはまったく問題はない。確認のためデメリット部分をここで記しておく。まず、ライカM6以降のボディで折角28mmファインダーフレームが付いても、このレンズを装着すると35mmフレームが出てしまう。また内蔵露出計がついていても測光はできない。非レトロフォーカスレンズのため後ろ玉が飛び出しているので、M5、CLなど測光素子が腕木のようにレンズ前に出てくるタイプは、どうしてもぶつかってしまうので使うことができない。30年以上前のレンズであるにしても、バルサムのはがれなど個体差が多くあり、良い玉に巡り会えるチャンスが少ない。もし購入することを考えているならば、外観だけでなく、できればテストをして決断されることをお勧めしたい。
Example
ここからはサンプルとして夕方の光で撮影したもの他をアップしておく。夕陽写真を見て解るように、逆光でもフレアはほとんどでていない。絞り解放での夜景でもネオンのにじみもなく成り立っている。このようにどのような条件下でも期待に応えてくれるのがすばらしい。そして付け加えておくが、このレンズをつけたライカM4だけを1台持ち、気ままにアメリカへでかけたので、すべて手持ち撮影である。
この写真は、ネパールでヒマラヤ・トレッキングに参加したときのものだが、山岳部においては眼に見えない非常に細かな砂塵が舞っていて、レンズ交換も最小限にした方が良いとのアドバイスからエルマリート28mmf2.8/1stをM4につけっぱなしで持ち歩いた。当然このような地区で長期間撮影したら、帰国後すぐOHに出した方が良いのはご存知の通りである。
追記:フィルターは48mm、あるいはシリーズ7をフードのなかに入れて使う。またフードは、四角く形の良いスーパーアンギュロン21mmf3.4と共通の12501Mである。